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強く、弱い君達へ 完結編

強く、弱い君達へ 完結編

この物語はフィクションです。実在する人物や団体とは一切関係ありません。またこの物語の無断転載はおやめください。

過剰な保護は刃物になる

世の中には特殊な能力を持つ者が居る。彼らはそうした能力が元で人々から恐れられ蔑まれてきた。
但し、世界的に活躍している者がそうである場合、また態度は変わってくる。

その場合、世間はそれを「才能」と呼ぶ。


才能その物は、磨かなければ凡俗な物になり、次第に一般人として溶け込んでいく事になるが、逆に才能を磨き続ければ世間からは白い目で見られる様になり、世間に溶け込む事はできず世間からは浮いていく事になる。
例えば、ある女子高生は性に囚われる様な考え方をする事はなく、そしてその考え方そのものを彼女は嫌っていた。加えて、彼女は正義感に溢れる性格だったため、その考え方を押し付ける様な場合や兆候があればそれを咎めた。
だがそれが逆に彼女の敵を作る事となり、それが元で彼女は自殺してしまった。
遺書にはたった一言

「ごめんなさい」

と書かれていたという。

また別の能力者は非常に強い共感性を持っていた、自分の周りの考えや気分を大まかに読み取る事が出来たが、逆にそれが仇になり最終的にネガティブな感情だけ強く読み取る様になってしまった。
こうした特出した能力を持つ者の精神が激しく崩壊していく事は珍しくなく、政府は彼らを対象に福利厚生を施したが、結果としてそれが裏目に出てしまい、世間は彼らに対して税金の無駄遣いだと罵ったり、強く突き放す様になった。
そこで政府はいっその事、別の国にしてしまおうという考えを起こした。しかしそれは刑務所に入れられるのとほぼ同じ行為である事を気付いていなかった様だ。

「故にいまこうして問題が起きているのだから」
とその国の広報係になった新田 雅士(にった まさし)は頭の中でつぶやいていた。
そもそも、そういう特出した能力を持つ者の中にもレベルがある。
同じ能力でも、例えば考えや気分を読み取るにしたって正確性や、範囲等が大きく異なる。それなのに一緒にしてしまうのだから、質が悪い。
「まあそうはいってもお上の意向じゃしょうがねえな」
と呟いた後、わかっている事を今知ったかの様に深く考え込むのだった。
差別者ばかりのお上か… と。


新田雅士は、とある友人に連絡をした。
その友人は、例の国のいわゆる代表者をしている。仮想国家だからといって仕事が少ないかといえばそういうわけではなく、仕事量としては普通の国の首長と変わらないだろう。
友人の名前は、茂永 理砂(しげなが りさ)。
新田とは高校生の時から友人だ。彼らが高校生の時は先述した特殊な能力を持つ者たちへの差別が今よりも厳しい世の中だった。
二人はその差別に対する基本的な考えで同調し共に彼らの助けになりたい。そう思い今に至る。
「当時はもっとマシだと思ったんだけどなあ…」
仮想国家を高い建物から見下ろし決して話しかけているのではないだろう声量で新田はつぶやいた。
「こればっかりはしょうがないよ。政府の意向じゃ逆らうのは厳しい」
二人はとっくにわかっている事象で頭を悩ませていた。

学生時代を思い出す様な、噛みしめる様な会話が終わった後、電話が鳴った。
彼女が電話を取ると、彼女の顔や態度から相当困った事が起きているであろう事がわかった。
新田はなにやら面倒事が起きている様だけど大丈夫かと聞くが、
茂永は「大丈夫。そもそも貴方は日本側からの使者扱いだからこの国に直接介入できないし」と。
それはそうだが…と新田は答える。茂永は気にしないでいつもの事だから…と意味深長な発言をし、移動していった。
茂永は大丈夫と答えたが、実際茂永は中間管理職の様な立場にある。
仮想国家の首長ではあるが、日本政府からの政策に意見を言えず直接従うしかない。そしてまたその下の位置に仮想国家の国民たちが存在している。
仮想国家の国民たちには人権がない。これは通説的な話ではあるが、実際仮想国家の国民になるときにそうとも取れる書面にサインを交わす事になるためあながち間違っているとも言えない。
それ故に子供等を仮想国家の国民にしたくない親は仮想国家に入れるのを断固として反対する。しかし、彼らの世間からの目線は冷たい。
世間の冷たい目線に耐え続けるには相当の強い精神がないといけない。だが仮想国に入ってしまえば自由はほぼない。
そこでそういったイメージやそれらに関連するイメージを取り除くために新田は政府に直談判して広報課を作ってもらった。
しかし、その内情としては厳しいもので、情報統制が引かれ殆ど情報を明らかにする事ができない。
その割に責任ばかり負わされているのだった。
しかし、新田としては責任を取らされる事よりも悪いイメージが払拭できない事。それが嫌だった。


仮想国家に入る事になった者には本人は是としていない者も多い。彼らはその殆どが強制されているからだ。
だが、そうは言ってももし仮に私が同じ状況になったとして私も同じ様な事を思っているだろう。と茂永理砂は感じた。
問題行動が目立つのは今回の彼だけではない。その度にいちいち国の首長である茂永が現地に赴いている...なんてわけはない。
そんな事をしていては国全体のレベルに関わるからだ。そして今、茂永が現地に向かうのはある意味で異質と言える。
有瀬 泰平(ありせ たいへい)は仮想国家の首長である茂永や日本政府に対し、反対的な意見を持っている。
有瀬は住民といつも一悶着起こしている。
今回もそうだろう。だから首長である茂永が直接頭を下げればどうにかなるだろう。
事情を知る関係者は皆そう思っていた。しかし、違った。
俯いていた彼は突然茂永に拳銃を突きつけた。
呆然とする関係者に対して
「拳銃を捨てろ。さもないとこいつを殺す!」と有瀬は叫んだ。

なぜ、こうなったのだろう。
私は躓きながらも失敗しながらもこの国の人間とうまくやっていた筈だった。
確かに納得行かない事も多い。しかし認知する事でいずれそれも消えていくだろうとそう思っていた。
新田くんと会話していた時に掛かってきた電話がカギになってしまった。"彼"はろくな説明をしてもらえなかった。だからこそ反抗したくなるのは当然よく分かる。
からしっかり説明しろとスタッフに命じ、スタッフもそうしてくれるとそう思っていた。

しかし、無情にも現実は違った様だ。
“彼"は私を人質にとって叫ぶ。
「ぼさっとするな!はやく拳銃を捨てろ!この女が殺されてもいいのか!」
脅し文句としては幼稚で、本来の目的から逸脱して作られた凶器は壊れ始めている。
しかし、依然として私を人質にとって脅すのには十分すぎた。
"彼"と争っていたと思った群衆もどうやら仲間だったらしい。
全ては私をおびき寄せる為の罠だったのだ。そう思ってた頃にはもう遅かった。
"彼"は捨てさせた拳銃を拾うと移動手段を用意させ、逃亡した。私を連れたまま。勿論"それ"は脅しとしての効果しかなく、そこに首長という立場は存在しなかった。

若き者達

茂永理沙は拉致された。
勿論現状での扱いに納得の行かない者達が、現状を変えるために行ったというだけの事である。それ以下ではないし逆にそれ以上でもない。
だが、彼らの茂永に対する態度はそこまで悪いわけではなかった。茂永から緊張感が抜けるくらいには目立った反骨精神は見受けられなかった。しかしふとした瞬間に起こす動作から茂永は彼らが自分達の立場のために自分が拉致されたのだと再確認する事ができた。


私は、仮想国家の首長で、できるだけ彼らの意思を尊重できる様に動いてきたつもりだった。
しかし、結果的には日本政府の要望のすべてを受け入れる事になってしまった。 有瀬泰平率いる暴動グループはそれが気に入らなかったらしく私は彼らに拉致される事になってしまった。
だけど、彼らもこの手段を良しとできるほど蛮族ではない様だ。
私は連絡手段を奪われてしまったため、日本政府がどう動くのか。それはわからない。しかし私にとって一番苦痛なのは彼らが感じているであろう重いや、彼らの主張を日本政府と掛け合う事ができないという事だ。
さっきも言った様に、私は彼らの主張をできるだけ日本政府に伝えたつもりだった。できるだけ。
だけど私はどこかで驕っていた。彼らが反骨してくる事はないだろうと。
その慢心が今回の事を引き起こしたのだ。それなのに彼らは私に対して蛮族の様な扱いをしているわけではない。
今後の体裁を気にしてかもしれない。世間の注目を集めるために人質としての私を生かしているのかもしれない。
しかし、仮想国家の住民達は世間から良いイメージを持たれていない。仮にそうだったとしてももう少し時間がかかるはずだ。彼らの真意はわからないが、仮想国家という"特別扱い"ではなく、普通に一般人として扱ってほしいというのが本心のはずだ。
それを本当の真意だとするなら今回の件はおかしいという事になる。
一般人として扱ってもらうために暴動を起こすと言うのはそこまでおかしい話ではない。ある程度は筋が通っている。
しかし、世間から彼らがそんなに悪い人間じゃないと思ってもらうために私に酷い扱いをしないのだとすればそもそも暴動を起こす事自体が間違っている。
幾ら特別扱いを受けているとはいえ、彼らも日本国内と連絡を取る事ができる。知人・友人に今の状況を伝え、メディアなどで扇情を煽る事で事態を好転される事ができるだろう。
しかし、それをしない。しなかった。何かがおかしい。


非日常は突然に訪れた。 茂永が暴徒達に連行された。
ありえない話ではなかった。新田はいずれ起こる事だったのだろうと思った。
彼らは感情を力によって抑制させられていたのだ。 自分がその立場だったら間違いなく反発するだろう。
しかし、国に対して懐疑心を抱くあまり、一番大事な国民達に対して何ができるかという思考を、考える事をやめてしまっていた。
いや、所詮は言い訳だ。何も解決しない。
正直、ありえないと思っていた。なぜならクーデターを起こせる様な材料は削られていた。
それらは徹底されており、刃物など危険性のある物は鍵がかかった場所に保管されていた。
食器等も特別に作られており危険性はなく、刃物を使う作業の場合は特別の監視の目があった。
それでも、ただ一つの穴があったのだ。
ある時、物作りの一環で導入された3Dプリンター。 もちろん家庭用の物で凶器など作れないはずだった。 出来ても強度が足りなかった。
だが、裏を返せばその瞬間だけでも形を保てればいい。 そうなれば話も変わってくる。彼らの目的はあくまでも脅しだ。その用途には事足りてしまった。
そもそも3Dプリンター自体搬入できるか怪しかった。
企業から提供された物で、搬入しないほうがいいだろうという話もあったが、企業側がこの程度なら凶器は作れないと断定したのだ。
一応、3Dプリンターのある一角には鍵がかかっていたが、さほど高度な鍵ではなく特段、監視の目もなかった。
もし凶器が3Dプリンターで作ったものだと知れたら、もし彼らが押し切った事が露呈したら彼らの会社の株が大幅に下がる事は間違いないだろう。
しかし、それよりも今は現在起きてしまった、事件について考えなければいけない。
彼らは牙を抜かれた獣と一緒で反発する意思など存在しない。 今まで強引に抑えられていた。これからもないだろうと考えられていた。
そんな考えとは裏腹に、静かに燃える復讐の炎があったのだ。 そして日本側と俺らはその前兆を見過ごしたという事だ。


「これだけ日本政府を恨んだ事は久しぶりだ」


怒りを抑えきれず、頭の中で叫んだ。
そう考えてももう一人の自分は自分を追い詰める。日本政府が彼らに対していいイメージを持っていない事は明らかだった。いずれこうなるだろうとわかっていたのに自分は何もしなかった。自分の事は棚に上げ、他人ばかり責めるのかと。
日本政府は茂永が人質として取られた事をきっかけに武装を始めた。きっと関係者の中には彼らをよく思わない者もいたのだろう。手回しが異常に早かった。
こうして戦争が始まってしまった。誰も望まないはずの戦争が。


俺らが首長である茂永理沙をさらってから一週間が経った頃、情報源として設置してあるポケットラジオから、現在俺らがいる場所へ進行してくるニュースが流れてきた。
それから数分後、監視役の仲間から戦車や、戦闘用ヘリなどがぞろぞろと進行してきている旨の連絡を受けた。
俺は仲間全員に戦闘準備を告げた。この時のために武器は準備してある。俺らの仲間は仮想国の人間だけではない。
辛うじて強制とも言える仮想国への移住を断り、海外へ逃げ延びた者たちもここに含まれる。主に彼らが武器の調達に一役買っていた。
俺は人質"だった"茂永理沙に近寄った。その目には恐怖と困惑の色が見えた。そして俺は静かにこう話した。

「あなたは元々人質として誘拐しました。しかし、日本政府側に交渉の余地がない事、そして彼らの戦闘機などが進行してきている事からあなたは開放します」
俺もできれば平和的な対話で事を済ませたかった。が、こうなってしまった以上戦うしかない。勝ち目はないが仲間もそれは承知だ。
「私達は、あなた達の武力的弾圧に歯向かうために戦います。あなたにはこの場面を永遠に忘れさせない。そうすれば精神的苦痛になり、二度とこの様な目に合う同胞もいなくなる」
実際、拉致した当初はそうは思っていなかった。
俺らの主張が通り、戦争になる事はないだろうと。しかしニュースの内容が過激になっていくにつれ自分が如何に甘い考えだったか思い知らされた。
しかし勝つ見込みのない戦争でも、俺らが大敗を喫する事になれば、この世界に衝撃を与える事になる。マスコミなんかも今度こそは黙っておらず過激に報道されるだろう。そう考えていると、意外な罵声が飛んだ。

「甘い事言わないで!!」
俺が驚いて目を丸くしている間にも言葉は続く。
「本来は、保護を受ける段階にある人間に何を言われても響かない!そりゃ、特別な才能を持った反面人から遠ざけられてきた。そのために人から理解されず苦しい思いをした事も一度や二度じゃないはず」
「だけど、それでも、あなた達がやってる事は間違ってる。いくら世間がモンスターペアレンツみたいな扱いをしてきたとしても彼らと同じ様な事をしてしまっては、ミイラ取りがミイラになるだけ」
「もしかしたらあなたはこの戦争で大敗を喫する事が世間の注目の的になる事につながるかもしれないと思っているかもしれないけど、それはあなた自身が失策だと気づいているんじゃないの」

図星だった。
実際に、以前あるツテであるマスコミにこの事を記事にしてくれと頼んだ事がある。
しかし、まともに相手にされず門前払いだった。ならばと今回は大掛かりな策を設けて実行したのだ。

「あなたがどんな手順で世間の注目の的になると考えているか。そこまではわからない。でもマスコミはあなたが期待している様な報道はしないでしょう。前提条件としてあなた達が絶対的悪役と決めつけてから話を進める。良くて同情を買うだけ、最悪でも悪役だしと納得される」
「世間はそこまで深く考えない。でも当たり前。彼らには彼らの正義があり、対立する正義は悪になる。でもあなたの。あなた達の思いが少しでも伝われば世間の意識も少しずつ変わってくる」

「だけど俺らはもう善良な道には戻れない」
「それは努力をしない事を正当化する言い訳に過ぎない」


俺は言葉もなかった。

今までこんなにムキになるほど真剣に語ってくれる人がいなかったからか?

違う。

今までこんなに真剣に俺を、俺らを思ってくれる人がいなかったからか?

違う。

単純にこんなにはっきり論破された事がなかったからだ。

実際リーダーシップなんて俺にはない。
頭がいいからとトップに押し上げられる事が昔から多く、俺もそれを受け入れそれに応え様と有頂天になっていた。
その時に、ある言葉を聞いてしまった。 それ以降、周りとは溝ができてしまった。
めんどくさいやつを都合よく操れる場所に追い上げられただけだったのだ。
まともに理論なんか交わせる筈がなかった。
どうなっても正論なんか返ってこなかった。返ってくるのは論点をすり替えた論破に似た攻撃的な言葉だけ。
いつしか俺は返事を聞かなくなった。どうせ聞いても内容などない。俺を攻撃したいだけの言葉に過ぎない。
誰でもそう。環境が変わってもそう。
仮想国に移ってからこそ多少口をきく様にはなったが、それも仲間内だけだった。
それを今の言葉で見透かされた様な気がした。
戦争自体は始まろうとしているが、俺はかけてみる事にした。

首長である茂永理沙という女性に。


幼い頃から天才だとか秀才と言われる人間が嫌いだった。
天才と言われる人間はどこか他人を見下している風潮があり、自分も例にもれずその対象となった。
そんな人間になるくらいならば馬鹿のままでいいと。強がりを言って馬鹿を装っていた。
世の中そんな人間は多くなくむしろ少数だと薄々気づき始めたのは高校生になってからだ。
それでもなお天才は皆、心の底で俺の事を見下しているのだと思い込んでいた。
いずれ高校を卒業するときになると、自分は大衆の中で下の中なんだと気づいた。
馬鹿な俺は天才が嫌いだった。それはただの嫉妬に他ならなかった。
自分は本当はあんな奴らよりも頭が良いと思い込み、今の姿は周りに思い込ませるためのフェイクだと本気で考えていた。
しかし現実は違う。世間は現実を俺に突きつける。自分の我儘と認識不足に気付いた時、俺は現実逃避をしたくなった。
大学には学生が本当に大学に通う気があるのか、記載されている住所に住んでいるか。などを確かめる部署がある。
きっと俺も例にもれず確認対象者に含まれていたのだろう。まあそりゃそうだ。
せっかく進学した大学にも行かず、一日を無駄に過ごす事が続いたある日。

彼女は現れた。
それは、家には家族の目があり、そのままいるのもはばかられ、しかし他に行くところがなく公園のベンチに腰掛けて下を向いていたときだ。
ふいに視界が暗くなった。それも急に夜になったなどの暗さではない。もっと明るい暗さだ。
目線を上げると、彼女と目が合った。
彼女は目線が合った事に気付くとにっこり笑った。その笑顔を悲観的に感じた俺は気のない返事を返してしまった。
「なんか、よ、用ですか」


ラノベや漫画なんかによくある表現だが人は長い事外界と接しないと言葉がでなくなる。それはどうせ偽物、誇張した表現だろうと思っていたのだが、少なくとも自分においては違った様だ。実の親に対してはもっと強く出れる癖におかしな話だ。
気のない返事を向けられた彼女は一瞬戸惑いつつもすぐに笑顔に戻る。
「隣、いいかな?」
勿論断れる勇気もなく、渋々隣に座る事を許可した俺はしばらくして後悔した。しかし今更離れろと言う勇気は俺にはなかったし、彼女が話し始めてしまったので断れなかった。あまりに近く肩が当たる距離でも。

「私、君の事を知っていると思うんだ」
「まあこれで外れてたらこんなに見ず知らずの人に近づいて恥ずかしいけど」

俺は彼女が誰かは知らない、しかし彼女は俺が誰か知っているかもしれないという。
まあでも今の状態ならまだ見ず知らずになるのかな…?などと言っている彼女に俺は一言

「どちら様でしょう?」 飾り言葉も何もない不躾な言葉だが、お前誰などと言わなかっただけまだ褒めてほしい。
「えぇっと茂永... って言ってもわかるわけないか。あれから少なくとも6年は経ってるわけだし」

俺は嫌な予想をした。6年以上前から俺を知っているが俺は知らない。加えてあれだけ明るい笑顔ができる…そうなると俺の事を良く思っているはずがない。
そう思い、茂永と名乗る彼女をジロジロと見ていた。よほど怪訝な顔をしていたのだろう。自分でもその自覚はあった。
「やっぱり他人の空似なのかな…?」
「君って、新田くんじゃないの?新田雅士くん」
「いやまあそうですけど…」
あなたの様な人は覚えてないです。言いかけた言葉は飲まれてしまった。今だから言える事だが多分彼女だけでなく誰も覚えてなかったと思う。彼女以外は今でも覚えていない。

「私、同じ中学校に通ってたんだけどあんまり通学してなかったからそれもそうか」
不登校だと目立つと思われがちではあるが、実際の所ははじめこそ目立ちはするが次第に忘れられ存在自体が認知されなくなるというのが現実的なオチである。俺もそうだったからこれは間違いないと思う。
しかし、彼女を覚えてない理由はわかったが、"俺を覚えている理由"がわからない。

「俺を、なぜ?」
まともに会話していない俺はただでさえ言葉が出にくい上に隣に、すぐ隣に不慣れな異性がいるとなってはもう満足に喋れない。

「そうだね…」
彼女は俺に対して憧れの目を抱いていたらしい。ただの馬鹿に。
なぜそうなったのかは、前述の様な幼稚な考えもあるが、もう一つ。
「君が私をかばってくれたから」
俺はもう中学というと今では自分も周りも含め嫌な思い出しかないが、俺は良い事も少しはしていたらしい。全く覚えていないというのがネックだが。
聞けば彼女は登校開始から数ヶ月程度で不登校になったらしい。しかし影では彼女の事を悪く言うものも大勢いた。勿論先生などの前ではそんな素振りは見せなかったが、そもそも先生も気づいていたのだろう。
彼女に転校を勧めていた。そもそも不登校になるには本人にも問題がある場合もあるが大半は周りにも問題がある。適正の問題もある。その先生の判断は妥当と言えるだろう。
そして彼女は転校する事にした。転校する手続きを行うために学校を訪れたとき事件は起きた。

「あっ!サボり魔が来たぞ!」「やっと授業を受ける気になったのか…?」「もう遅いんじゃね?」
声こそ大きくないものの本人には十分なほど聞こえる声量。いわゆるヒソヒソ声というやつだ。
もちろん彼女は気分を悪くした。しかし不登校になるくらいだ、面と向かって反論もできずに下を向いているとそこに俺が現れ、
「くだらね…これだから天才は」
と、こぼしたという。


たちまち、周りからは非難の声が上がるが俺はどうにも思わずむしろ彼らを糾弾して場は収まった…というのが彼女の主張だった。
正直言ってそんな青春な思い出はないし俺はどちらかというと裏でコソコソしているタイプだ。覚えがないと伝えるも。

「まあ、それならそれで違和感なく無意識に、いじめをノックアウトできるという事だよ」と。
いまにして思えば自分が正義だと思い込んでいるからこそできた代物だろうと思う。それだけ俺は馬鹿だったのだ。
少し恥ずかしい。
しかし、話は今の俺に戻る。

「でね私今、雷姜大学に通ってるの」
俺は驚くと同時に言いたい事がなんとなく分かり、げんなりする。

「その様子だと察しがついてるんだと思うけど今の君は...その...あまり良くないと思うよ」

そんな事はわかっている。
「それはわかってる」

わかっているのかわかっていないのか傷をえぐる彼女は言う。
「いやわかってないよ。いじめを糾弾できるほどの君がただ腐っていて良いはずがない」
「あれは、ただの自己満足で…」
「自己満足でも私は救われた。その事実は変わらない」
そこで少し考え
「…でも確かに君からすれば自己満足なのかもしれない」
そうだ俺はそんなに大した人間じゃない。そう言いかけたところで一言。

「でも今の君自身もそうでしょ?」
「え?」
「今の君は君自身からすれば大した人物じゃないと思っているかもしれないけど、私からすれば英雄だしある意味で命の恩人なんだよ」

命の恩人は言い過ぎだし、英雄なんてものじゃない。そう言おうとするが言葉が出てこない。
「正直に言うとあのとき君に一目惚れしたの」
突然のカミングアウトに驚きが隠せない俺
「あ、え、そ、その」
「でも今の君は好きじゃない。正直言うと少しがっかりもした」
「…」
「だけど君にも人間らしいところ…もっと言うなら私と同じ様なところがあって嬉しかった」
よく知らない...いや覚えていない女性に告白まがいの報告を受けている俺は状況がうまく飲み込めていない。
「嬉しかった…でもこれは"過去形"。いくら私が嬉しくてもやっぱり君自身の問題は君自身が乗り越えるべきだと思う」
「だから、手伝わせてほしい。君自身の問題を突破するのを」
そこまで言って彼女はこちらを見て、手を伸ばす。

俺は目を逸らすと、
「なぜ…なぜそこまでするのか俺にはよくわからない」
当たり前の事だと思う。突然現れたかつてのクラスメートが今の状況を打破するのを手伝ってくれるというのだから。
しかし、彼女は目を合わせて来て、言う。
そして答えは単純だった。

「あなたが好きだから」
俺は夢でも見ているのだろうかと思った。そうだ俺はもう自殺に成功して理想の夢と言う名の幻想を見ているのだ。
しかし、夢だとするなら意識が覚醒しすぎていた。もっと言えば気分が少しばかり晴れていく様な気がした。

「ありがとう…」
そう一言だけ言うと俺は泣いていた。
それからは少しずつではあるが事態は好転していった。学習の遅れ分もあったので彼女と一緒に卒業というわけにも行かなかったが最終的には卒業し、就職する事もできた。
その経験があったからこそ"彼ら"をこのまま放置できないと考えたのだ。

そして俺はまず仮想国家を政策として推し進めた官僚を中心に攻撃をやめる事願って回った。
勿論、なんの経験のない俺に耳を貸してくれる者は少なく大半は門前払いだった。しかし何度か頭を下げていると一部の者は耳を貸してくれる様になった。
しかし仮想国家への攻撃は半ば既定路線で止めるのはそう簡単な事ではなかった。それでも色んなコネを通じて攻撃を決定した本人と相談をできる所まで漕ぎ着けた。
その決定した人物は、国防省長官 朝川 和人(あさがわかずひと)だった。

私は攻撃が行われ様としているその現場にいた。
その現場にはバリケードが引かれ如何にもこれからテロが行われる、若しくは行おうという状況だった。
有瀬が何とかメンバーを説得しとしているがまだ時間がかかりそうだ。
私が出ていって大勢の前で説得する事も考えたが却って逆効果だろう。
このままでは、日本本国から攻撃隊が来てしまえば即戦争が起こってしまうだろう。比喩などではなく本当の戦争が。
そんななか、ヘリコプターの羽が回る音が聞こえた。

なんとか朝川に会う事ができたが、攻撃を停止させるのはそう簡単な事ではなさそうであった。
朝川の腰は重い。決定してしまった事を翻すのは体裁的にも行政的にもそう簡単な事ではない。

「で?君は何か確証があって私に攻撃を止めろと言っているのか?情けや同情だけで私に攻撃をやめろと言っているなら私は帰るぞ。私は忙しい身なのだ」
その主張は最もだが
「彼らに攻撃する意思がある様には思えません」
「その根拠は?」
やはりしっかりと根拠を示すしかないだ。状況証拠でも朝川を納得させるだけの証拠が。
「根拠は彼らの行動です。逃げる時に施設全員を殺しても十分脅しにはなったと思います。加えて元々戦争を起こすつもりなら首長である茂永を殺しても事足ります」
「なるほど。一理ある。現に彼らはこの状況に置いても茂永を殺さずに生かしているだしな。この状況では単なる足手まといだろう」
「なぜ...彼らの状況がわかるのですか!?」
嫌な予感がした
「簡単な事だ。ヘリで彼らの様子を空撮しているのだよ」

嫌な予感が的中した俺は軽く目眩がした。

私達の頭上に現れたヘリは一切攻撃をせず旋回していた。まるで私達の出方を窺うかの様だった。
何をしているのだろう...?
「しゃらくせぇ!撃ち落としてやる」
誰かがロケット弾発射器を持ってヘリに向かって発射しようとトリガーに指を掛けた。その瞬間有瀬と私は叫んだ。

「やめろ、撃つな!」「撃っちゃだめだよ!」

「長官、ちょっと」
眼の前で朝川の耳元に補佐官らしき人物が声をヒソヒソと声を掛ける。
そして次に朝川から衝撃の一言を聞かされる

「空撮をしていたヘリに攻撃があったそうだ。」

声を上げたもののもう遅く、ロケット弾は発射されていた。
幸いにもヘリはロケット弾を避けヘリが墜落する事はなかった。
「馬鹿野郎、なぜ打った!」
「え、でも...」
「いいか、俺らから先に撃ったら俺らに攻撃する意思がある事になっちまう」
「いや、でも儂らには攻撃する意思があったはずじゃあ...」
「それじゃあ意味が無い事がわかったんだよ!」
今更言っても意味がない、勿論彼に誤った事を行ったという考えはなかっただろう。
しかし、これで内部分裂が始まるのは必然だ。そう思っていた矢先ヘリからロケット弾が発射された。

「これで君が言う攻撃する意思がない。という考えには無理があると証明されたな」
「しかし...」
「しかしもなにもあるか!現にこうして我が国のヘリに対し攻撃があったのだ。幾ら我々から攻撃出来ないとは言え攻撃を受ければ反撃するしかあるまい」
「そりゃあ、敵国のヘリが飛んできて頭上を回っていれば攻撃するに決まっているでしょう!あなたは敢えて攻撃するよう仕向けたのではないのですか!」
「何を素人が!わざわざ戦争を引き起こす行動をするわけがないだろう!」

ロケット弾が直撃した所はバリケードが崩れ多くの人々が下敷きになっていた。
「遂に撃ってきた…」
「こちらの安全を脅かして来た」
「反撃するしかあるまい」
「反撃用意!」
「「「おう!」」」
「待て!」
水を差された様に群衆は訝しげな目線を有瀬に送る。
「攻撃はするな、一切!」
「なぜだ!」
「攻撃すれば我々は勝てない。わかっているだろう」
群衆は言葉もなく黙り込む。次の言葉を待っている様だ。
「いくら武器を持とうと、結局、我々は素人だ。訓練を受けた日本本国の自衛隊に勝てるわけがない!」
「じゃあ、どうするんだ。このままじゃ全滅するぞ!」
ロケット弾がどこかにあたりあたりが崩れる音がした。
「今も攻撃を受けてる!反撃せざるを得ないだろう!」
「いいか、この状況は日本本国の政府だけではなくマスコミも追っているはずだ」
「少なくとも我々は戦後初めて日本国に戦争を仕掛けた国家だ。それが仮想国家であってもだ」
「そんな状況をマスコミが放っておくと思うか?」
「しかし、この惨事を黙って反撃せずいろというのは無理だ」
「それは耐えてもらうしかない、反撃せず耐え続ければマスコミもこの状況を我々に都合の良いように報じるだろう」
私はそこで初めて声をあげる。
「残念だけどそれは無理があると思う」

俺と朝川が論争をしていると、その人物は現れた。
内閣総理大臣、中崎 行広(なかさき ゆきひろ)、その人である。

「総理!」「総理大臣!?」
驚く俺達を横目に総理大事は続ける。
「新田くん、彼らは本当に敵意はないと思うか?」
「え、何を突然」
「いいから。君を答えを聞かせてくれ」
確固たる意思を持って俺にこの難問を問おている。考え過ぎかもしれないが俺にはそう感じた。
俺は迷わず答えた、そうでなければ説得力にかける。
「はい、彼らに攻撃する意思は元々なかったでしょう、今は敵対するかもしれない勢力が目の前に現れてパニックになっているだけです」
「何を根拠に言ってるんだ!素人に何が分か...」
「少し黙ってくれないか」
中崎総理の強い一言にその場にいる全員が驚く。
「君が言う事も強ちありえないとも言えないと私は思う」
「しかし朝川国防総省長官が言う事も理解できる」
俺は中崎総理が次に何を言うのか怯えながら聞いていた。
しかし次に中崎総理が発言した言葉に俺は自分自身の耳を疑う事になる。

「君が直接現地に行き、彼らを説得するんだ。我々に彼らを攻撃する意志はないと」

「なぜ否定するのです!?まさか我々にただ黙って野垂れ死ねと!?」
「そうは言ってないけど、まず貴方達がこうして大規模な行動に出たのには訳があるんじゃないかと思った」
「そりゃあ、もちろん完全に独立する為に...」
「そういう事を言っているわけじゃない」
「こうなる前にひょっとしてマスコミにこの現状を記事にする様、頼んだりはしなかったの?」
「そりゃあ、頼みはしましたけど...まさか!?」
「そう、その時にマスコミに頼んでもマスコミは記事にしなかったんじゃないかな、少なくとも私はそんな記事を知らない」
「今回の事も一方的に私達が悪く言われてそれでおしまいの可能性もある」
「じゃあ、一体どうしろと...」
「私に考えがあるの、これが駄目なら私も一緒に死ぬしかないと思う。一旦、私を信じて」
茂永はそう言うと有無を言わさず携帯を取り出し尋ねる。
「ここって電波来てるよね?」

「もちろん、無制限にというわけには行かない」
「こちらだって一つの国家だ。国民が危険に晒される状況をいつまでも作るわけには行かない」
俺と朝川は黙って中崎総理の次の言葉を待った。
「そこでだ、いつまで経っても説得の余地が見えない、若しくは説得中に攻撃を彼らが行ってくれば君は一気にそこから引き上げ、我々は彼らを我が国に仇なす敵として攻撃対象にする」
「それで構わないかな?」
「寛大なお心遣い痛み入ります...しかし...」
「しかしなんだね?」
「いえ、一瞬でも攻撃をする隙きを与えれば...」
「自分が信じた事や人物くらい、押し通しなさい!」
「!ありがとうございます!」
「おいちょっと、君!」
「総理も!いいのですか、知りませんよ!」
「犯罪を犯した者には必ず弁明の余地が与えられる」
「しかし今回は規模が大きいだけにあるにもかかわらず弁明の余地すら与えられる攻撃をされ、彼らは大量虐殺されそうになっている」
「しかし...」
「一瞬だけ彼らの真意を探る事も必要だろう。加え彼らの普段の状況は劣悪な物だったと聞く」
「弁明を聞く必要もあるのではないか?」
朝川は苦虫を潰したような声で押し黙った。
そこで、俺の携帯が鳴る。相手は茂永だった。
「茂永から...です」
俺は戸惑いながらその場の全員に伝える。
その場の全員は驚き動揺が隠せていない。ただ一人を除き。
中崎総理大臣は告げた。
「出たまえ」

終決


「茂永!?無事なのか!?」
「私は無事」
「良かった。俺はとにかくお前の事がしんぱ...」
「落ち着いて今から私の言う事を聞いて」
俺は心配の言葉を遮られ寧ろ落ち着くべきはお前ではないのかと思いながらも了解の返事をする。
「私達は今、日本本国の自衛隊から攻撃を受けていて壊滅的状況よ」
「反撃をすると攻撃の意志があると捉えかねられないから反撃もできない」
「そこで今、貴方がお願いがあるの」
「なんとか国側を説得してくれ...か?」
電話は周波数から似たような音を拾っているから微妙はニュアンスは伝わりにくいという。
しかしそんな電話からでも彼女の驚く様子は伝わってきた。
「なぜ、それを...」
「舐めるなよ、好きな女性を部外者のままただ黙って見てるわけには行かないんだ」
自分で言った言葉なのに顔や体全体の温度が上がっていくのを感じた。
ふと恥ずかしさをごまかすために周りを見るとニヤニヤとした目線に気づく。ただ一人朝川を除き。
「とにかくそれなら話が早い、今からなんとか説得を...」
「今それが終わったところだ。そちらの攻撃する意思が無い事が分かれば彼らに攻撃する事はないと言っている」
「え!?」
「とにかく今からそっちに行く、暫く待ってろその間一切攻撃はするな、話がややこしくなる!」
「わかった...」
その後、現地に行った新田は彼女と再開し彼らの攻撃する意志が無い事も証明する事に成功した。
皮肉な事にその場に居たマスコミは彼の説得する様子をテレビ中継で伝えていた。

「強く、弱い君達へ」
「君達は我々の事を怖がっているのかもしれない」
「しかし、我々も君達が攻撃をしてくるのではないかと怖いのだ」
「君達がわざと我々に攻撃をしているのではないとわかっているが、どうかそれを証明してくれないか」
自衛隊も一時的に下がらせた。だからこっちへ来て話を聞かせてくれ」

その後、有瀬が姿を現し彼が新田との会話に応じた事で彼らに攻撃の意志がない事が判明した。
茂永が言ったマスコミは仮想国家の彼らの都合の良い方に報じてはくれないという予想に反し、手のひらを返したように政府の対応を非難し始めた。

蛇足

茂永と新田はとあるカフェにいた。
「しかしあの時の中新田くん、イケメンすぎでしょ」
「「舐めるなよ、好きな女性を部外者のままただ黙って見てるわけには行かないんだ」あのセリフは並大抵じゃ言えないよ」
「やめろよ、恥ずかしかったんだぞ、総理にも見られて」
「そこも味噌だよね、国家のお偉いさん方がいる状況にも関わらずストレートな告白」
新田があんな事を言うんじゃなかったと思っていると待ち人は現れた。
「新田さん、茂永さん」
「お、やっと来たね、泰平くん」

あの騒動の後、仮想国家の彼らはあれ以上危害を加えられる事もなく無事戦争は集結した。
終結後、有瀬泰平は流石に無罪放免というわけには行かなかったが、状況が状況なだけに刑はかなり軽減された。
他のメンバーも同じように軽い刑罰で済んだ。
仮想国家については、そのシステムには問題があると論じられた。
その結果、政府は仮想国家のシステムを取りやめ一芸に優れた者をもっと効率的に支援する方向へシフトした。
俺はと言うとあの説得が評価され説得を主に担当する特殊捜査チームに編入される事になった。
しかも今回の経験を基にヒラから課長への異例の昇進だった。

「いやぁ、でもまさか日本本国側でまともな仕事に就けるなんて」
有瀬は嬉しそうにそんな事を言った。
「仕事が大変だからってクーデターを起こしたりするなよ?」
「起こしませんよ、そんな事。俺の望みは叶ったんですから」
三人で談笑しているとそろそろ各々が行動を開始しなければ行けない時間になった。そろそろ別れるかと言う事になったとき、有瀬が零した。
「そういえば結局お二人は付き合ってるんですか?」
俺は飲んでるコーヒーを吹きそうになった。
茂永はというと至って冷静な顔...いや人をおちょくる様な顔をこちらに向けていた。
別に隠す事ではない、恥ずかしいが。と思った俺は答える。
「最近付き合い始めたんだよ」

あとがき

「強く、弱い君達へ」を最後までお読みいただきありがとうございました。
以前タンブラーの方で公開していた時には様々な事情が重なり最後まで書ききる事ができませんでしたが、今何年かの時を経てこうして完結まで書き切る事ができました。
以前公開した方には内容にズレがあったり、基本的な所ができていなかったのでそこを直してから新たに書き始めました。
副題も沢山ついていたのですが分量的に区切る所ではない所についていたり…という事もあったので思い切って3つ...いやあとがきがあるので4つにしました。
今後、長い小説を書くつもりはないのですが余裕ができたらその内書くかもしれません。
その時にもし完結しないまま小説が消えても「あぁ、こいつは書く気力が失せたんだな」と思って生暖かい目で見ていただけると幸いです。
まだ書き綴りたい事はそれなりにあるのですが、本編よりあとがきが長くなっても興ざめだと思うのでここらで終わっておこうと思います。
過去に投稿した方も近いうちに挙げるので良ければ比較してみてください。ありがとうございました。